イジワル上司に恋をして
「あぁぁああぁっ……!」
一人きりの部屋で、朝から羞恥心丸出しで突然叫んで布団に蹲る20代の女子なんているんだろうか。
何から隠れてるのかもわからないその状況を目撃した人がいたなら、ひいてしまうだろう。
くしゃくしゃの寝癖と、しわしわのTシャツで、枕にしがみつくようにしてる女子。
……ヤバイ。いつもにも増して壊れてる、わたし。
そろりと顔を上げ、布団の上にちょこんと座る形で仕切り直す。
けど、すぐにまた、夢の中の恥ずかしすぎる内容を思い出しては、枕に顔を突っ込んだ。
「だ……ダメだ……重症だ」
普段の妄想は出来なくなるし、夢には〝理想〟のアイツが出てくるし。
病んでる……病んでる、わたし……。
『オレの気持ち、わかんないか……?』
架空の出来事を思い出し、勢いよく起き上がると今度は枕を軽く投げつけて言った。
「わかんねーよッ……」
……ああ。まだ直接会ってもいないのにこの疲労感。
これから出社っていうのに、先が思いやられる……。
「はぁ」と脱力したわたしは、がっくりと肩を落とし、それから少しドキドキが収まった頃に布団から出た。
いつものようにバスルームへと向かう途中、洗面所の鏡の自分と目が合う。
そして、唇に目が留まると、夢でもない現実に起きた、アイツとのキスを思い出してしまって、落ち着き始めた心臓がまた騒ぎ出す。
照れ隠しのように、自分が映る鏡から目を逸らす。
足元を見ながら、変な想像をしてしまう。
『昨日……なんだかんだ、吉原さんともキス……してたりして』
うっかりその先まで妄想してしまいそうで、思いっきり頭を横に振った。
シャワーを浴びても、そういう想像が抜けきれなく……。
結局精神統一出来ぬまま、ふらふらな心理状態で出社するハメになった。