イジワル上司に恋をして
「うわ。もしかして、傘ないわけ? 降水確率とか見てねーの?」
いちいちむかつくもの言いと、無駄にデカイ背で見下ろすその目が気に食わない。
内心、カチンときて、文句のひとつでもお見舞いしてやりたいって思ってはいる。……いるんだけど、実際にそれを出来るほど、強い心がわたしにはない。
……そんな強靭な心を持ってたら、日ごろ妄想なんかしてないで、リアルにガンガン行くっつーの!
って、それ、今関係なかったかも。
しばらく無言で黒川を見上げ、上手い返しが思い浮かばないわたしは、ふいっと顔を戻して淡々と答えることにした。
「……たまたま、今日は見忘れてたんです」
それは嘘じゃないし。ていうか、その一因はアンタにもあると思いますけどねっ。
あー、もう。早く行ってくんないかな!
道を開けるように体を横に避けて、一秒でも早く、黒川が帰っていくことを心から願う。
敢えて、これ以上構わないように半分背を向けて、どうやって帰ろうかを思案していたときだった。
バッと音がして、雨音が弾かれる音がする。そして、少し濡れ始めた前髪の向こう側に黒い影が見えた。
「教えろよ」
狭い玄関の隅に立つわたしに、黒い傘を開いて黒川はそう言った。
「……は?」
なに? なにを教えろって?
ていうか、ウソでしょ。アンタとわたしが相合傘だなんて!
わたしに差し伸べるようにしてる手から、開かれた傘を見上げる。それから、黒川の顔におずおずと視線を向けると――。