イジワル上司に恋をして

「なっちゃん。なにかいい飲み物淹れられる?」
「……はい?」
「あの方ね。今日の一番目の式の花嫁さんなんだけど、緊張しすぎてどうにもならなくて、ここにもう来ちゃったみたいなの」
「あ……そうなんですか」


ちらりと再びガラスの向こうに視線を向けると、背を向けるようにして座ってる髪の長い女性が俯いていた。


「新郎さんは、ご両親を連れてくるみたいで。ココに直接集合って約束なんだって。だから余計に不安なのかもしれないわ。だから、ちょっとでも緊張をほぐしてあげないと……」
「わかりました。じゃあ、なにか温かいもの用意して持って行きますね」
「ありがとう。お願いするね」


香耶さんは一連のことをわたしに説明し終えたら、すぐにまた女性のところへと戻って行った。

美優ちゃんにひとこと声を掛けようと思ったら、静かなショップ内だったからかすでに耳に届いていたようで。


「店は大丈夫ですよー」


商品を手にしながらニコリと笑いかけられたわたしは、ホッとしながら「じゃあ」と裏へ向かった。
給湯スペースに足を踏み入れるなり頭を悩ます。

……うーん。こんなときはなにがいいのかなぁ?
ハーブティーとか、そういうのもヒーリング効果あるけど……。

色々と短時間で考えた結果、シンプルなものにしてみることにした。

もしかしたら、好みじゃないかもしれない。そうならまた、すぐに淹れなおせばいいよね。

そうして白いカップをトレーに乗せ、ゆっくりと女性の元へと近づいた。

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