イジワル上司に恋をして
「妄想女は、こういう場面ではどんな想像してんの?」
傘の中で黒川は、クッと嫌味な笑いを漏らした。
その執拗なカンジ! 職場のみんなにも是非、見せてやりたい!
「別になにもっ…………あ」
コイツの顔を見ながらだと、反論するにもその嫌味な顔に負けてしまいそうだから、と視線を少し下にずらす。
そこに見えたのは、ずっと差し出したままの黒川の手。それと、太くて黒い、傘の柄。
その柄を見て思い出す。
そういえば、あの日――……傘、忘れてたの、取りに戻ったんだ。
ていうか、やっぱり……やっぱり、同一人物で、夢じゃないんだよね。
見覚えのある傘に言葉を止めてしまうと、それにめざとく気付いたらしい黒川が、さらに眉を吊り上げて活き活きと言う。
「ああ。傘(これ)。あのとき、“誰か”がグラス割ったりしたから、それに気を奪われてすっかり忘れたよ」
「――っ……」
「気を奪われて」だなんて、そんな繊細な心の持ち主じゃないでしょ、あなたは!
そんな反抗心を瞳に映して睨みつけると、ますます面白そうにして黒川が続けた。
「後日、わざわざ取りに行くの、面倒だったなぁ。でも、これ気に入ってるやつだったしなぁ」
「……」
なんってイヤなヤツ! そして、傘ひとつで、なんて小さい男!
「つーか、入るの? 入んないの?」