イジワル上司に恋をして
……うわ。すごい好みだ、コレ。
今までよりも、もっと顔を近づけて見つめるそれは、小さな飾りのついたネックレス。
ピンクゴールドのチェーンの先に、8つの雫が象られたミルククラウン。その中央には一粒のダイヤ。
シンプルにも見えるけど、よく見たら凝ってるデザインのそれが、すごく心惹かれてしまう。
値段は……2万8千円……。たかっ……。
久々に気に入ったものでもあれば買おうとは思ってた。けど、予算の10倍にもなっちゃうと、さすがに諦めるしかない。
がっくりと肩を落としていたところに、店員さんに声を掛けられる。
「いらっしゃいませ。よければお出ししますよ?」
パッと振り向くと、ウェーブがかった柔らかそうな髪の、落ち着いた雰囲気の女の人。
第一印象が、なんとなく香耶さんぽいな、と感じた。
「あ……はい。もう少し見てみます……」
「そうですか。ごゆっくりご覧になってください」
にこりと最後にも笑いかけたその店員さんは、必要以上にしつこくくることもなく隣のショーケースの中を整頓していた。
ホッと安堵の息を小さく吐いて、再びショーケースに視線を落とすなり、聞き覚えのある声がした。
「お疲れ! 昼はまだ?」
「あ、修哉(しゅうや)。どうしたの?」
「いや。近くまで来たから」
「そう。待ってね、もう少しで休憩の時間なの」
似た声は聞いたことがあるけれど、話し方や会話の内容は全く聞き慣れないもの。
声の他人の空似っていうこともあるのか、とちらりと視線をあげて、さらに驚いた。