イジワル上司に恋をして

……似てない……?


ちらっと見るだけのつもりが、思わず視線を外せなくなるほど。
姿形とかもそうだけど、もっと……あ。

盗み見るように見ながら確信したのは、その店員さんに笑いかけてる顔を見て――。


笑った顔が、似てる。
アイツはあそこまで満面の笑みじゃないけど、でも似てる。


「じゃあ近くで待つかな」


そう言ってその男の人が店を離れようとしたときに、店員さんが呼び止めた。


「あ。修哉、先頼んでていいからね?」


シュウヤ? ちょっと待って……アイツの名前も――


「ああ、いや。例の話。優哉に電話してるから」
「優……哉……」


〝ユウヤ〟だ。


自然と口から出てしまったアイツの名前に、当然隣の女性とまだ近くにいた男性が気付いて視線を向ける。
二人の視線を受けたわたしは、身を竦めるようにして俯いた。


「……優哉くんのお知り合いですか?」


女の人が控えめに尋ねてくる。
心臓をバクバクと鳴らしながらも、答えるしかないと、震える声で言った。


「……や。その……わたしの知る人も……優哉って名前で……黒川、優哉」


恐る恐る顔を上げると、その女性は目を大きくしてわたしを見たあと、路上側に立つ男性と目を合わせていた。
その反応から、どうやらわたしの予想は合っていたのだと確信する。
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