イジワル上司に恋をして

「俺、黒川修哉って言います。優哉の兄です。あなたは、優哉とは……?」
「あ、の……職場が……」
「え? 職場が一緒なの? 優哉と?」


驚き目を丸くさせた修哉さんは、食いつくようにわたしに一歩近づいた。
そんなに驚かれるのも想像してなくて、瞬時に声を出せなかったわたしは、頭を縦に振った。


「マジ? 最近も優哉、忙しいの? 元気?」
「えっ……はぁ、まぁ……」


対面するようにショーケースに身を乗り出しながら聞いてくる。
その姿勢にさらに驚いて、今度はわたしが目を丸くした。


「ラッキー。こんなとこで優哉に近い人と会えるなんて!」


はにかむように言った修哉さんを真正面からみると、まるでアイツがそういう表情をしてるような錯覚に陥りそう。
黒川とは違う、屈託のない笑顔を浮かべるお兄さんの修哉さんは、人懐っこい性格っぽい。
出会って間もない……数分だけのわたしに、次々と言葉を投げかける。


「アイツ、連絡しても捕まらないし。折り返し連絡することも滅多にないし。生きてんのかーってたまに心配んなるんだ」
「ああ……」


まぁ確かに。
本性のアイツなら、そういう連絡のやりとりとかめんどくさがりそうな……。

そんな想像をして声を漏らしながら、ハッと気付く。

めんどくさいとか、そういうことだけじゃなくて。
相手が〝お兄さん〟だからなんじゃないの……?

過去に気まずい思いをして未だ引き摺ってるアイツは、お兄さんとの接触を避けてるんじゃ……。

そんなことを思い出すと、関係ないくせにわたしまで気まずい思いになってしまう。


< 294 / 372 >

この作品をシェア

pagetop