イジワル上司に恋をして
「吉原さん……ですか?」
わたしが彼女の名前を口にしたから、修哉さんはものすごく驚いた顔をしていた。
小さく「えっ」と声を上げた女性も見て見ると、こっちも目を大きくしてた。
少しの間の沈黙後、言葉を詰まらせながら修哉さんが話し始める。
「あ……いや、ごめん。まさかそこまで知ってる人とこんなふうに会えたなんて……あまりに驚いて……」
「……すみません」
「いや。むしろ幸運だ。キミは優哉の彼女なの?」
「……いえ」
彼女でもなんでもない、ただの部下。
こっちが勝手に……気になってるだけの。
伏し目がちに答えたことに、「ふーん」と修哉さんが腑に落ちないような返事をする。
でも、それ以上詮索されずに済んで、胸を撫でおろした。
「そう……。実はね。その彼女、つい最近俺たちに接触してきてて……今はもう諦めたみたいなんだけど……その……優哉からなにか聞いたりしてる?」
「……三角、関係っぽい……こと、だけ」
遠慮がちに頷きながら、おどおどと正直に答える。
だって、隣には現彼女さんがいるわけで。
そんな彼女の前で言っていいものか……。そう迷ったけど、堂々とした態度と言葉に、この二人の間では、もう隠すようなことではないのかも……と思って言ってしまった。
そうじゃなきゃ、修哉さんはとっくにわたしをどこかに連れ出して、彼女のいないところで話をしてるとも思ったから。
すると修哉さんは、「はー」と力を抜くような溜め息を吐き、肘をついてる手でくしゃりと前髪を握って苦笑した。