イジワル上司に恋をして

「なんか恥ずかしいね。そういう関係(こと)知られてるのって」
「あっ。す、すみません……」
「いや、キミは巻き込まれてるだけなんでしょ? 謝ることないよ」


眉を下げて、穏やかに失笑する彼を見て、嫌でもドキドキしてしまう。

本当に、彼はアイツに似ているから……。
だから、まるで黒川がそういう表情をしているんだと思いこんでしまいそう。
アイツも、こんなふうに困ったように笑ったり、柔らかい話し方が出来てたのかもしれない。


「それならキミも知っておいた方がいいから」


再び真面目な面持ちで言われて背筋が伸びる。


「あの女には撹乱されないようにね」
「え……?」
「まぁ、暴力行為とかそういうことはないと思うからきっと大丈夫だと思うけど。でも、あることないこと吹き込んで、心を乱してくるかもしれない」


……というと、もしかして修哉さんもすでにそういうことが?

ふと、隣に静かに立っている彼女の存在を思い出しハッとする。

あ! そうか! わたしに近づいてきてるように、彼女さんにも吉原さんがなにか言ったのかも……。

思わず彼女を見つめてしまうと、わかりやすいわたしのこと。修哉さんは見透かしたように静かに言った。


「うん。俺だけじゃなくて彼女にも色々とね……でも、もう俺たちは大丈夫だよ。それに、真っ向から対抗したから、こっちにはもうきっと来ないと思う。……だから」


「だから」、弟の方に来たってわけ……?
過去だけに飽き足らず、今でもそんな簡単に乗り換えられるものなの?!
そんなの、信じられない!

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