イジワル上司に恋をして
仮に、アイツが本当に吉原さんのことが好きだったとして。
今でも、もしかしたら情があって冷徹になりきれずに、揺れてる気持ちがあるかもしれないとして。
2度もそんなふうに傷つけられたら――。
アイツのことだ。
今以上に性格ひんまがって、捻じれに捻じれて、ドSに拍車が掛かるじゃない!
……それに。
せっかくたまに見せるあの顔だって、見れなくなるかもしれないじゃない……。
「……あっ」
一人で憤るように考えていたら、その様子をどうやらずっと見られていたらしく。
それに気付いて慌てて視線を上げたわたしと目が合った修哉さんが、ふわりと微笑んだ。
「優哉も、キミが傍にいてくれたら大丈夫そうだね」
「……は……?」
なにが……?
それってどういう意味で……。
わからない顔をしていたのは、絶対修哉さんも気付いてたはず。
でも、敢えてなのか、その続きはなにも言ってはくれなくて。
「ああ、ごめん。いまさらだけど、名前。教えてもらってもいい?」
「あ……鈴原なの花、です」
「なの花ちゃん。貴重な買い物の時間、邪魔してごめんね」
「え。い、いえ」
優しい笑みと声が、嫌でも頬を紅潮させる。
「じゃあ、またね」
軽く手を振って、修哉さんはいなくなった。
振り返った先にいる修哉さんの彼女さんも、ニコッと笑ってぺこりとお辞儀すると、お昼休みに入ったのか奥へと消えていってしまった。
「『またね』って……」
ああ。社交辞令か。
そりゃそうだよ。連絡先だって交換してないし、もっと言えば黒川の連絡先すら知らないのに、〝また〟があるはずなんかない。
おもむろに、ちらりとさっきまで眺めていたショーケースに視線を落とす。
あ、でも。このお店に来たら、修哉さんの彼女さんには会えるのかもしれないのか。
……なんて。そんなこと考えてどーすんの。それこそ無意味よ。
小さなライトが反射したそのミルククラウンのネックレスが、いつまでもキラキラとしていて。
しばらくそこから動けずにいた。