イジワル上司に恋をして
ひと際目立つ、スーツの似合う男が姿を現した。
いざ、目標人物を目の当たりにすると、二の足を踏んでしまう。
アイツの前に出て行って、まずなにから言えばいいの?
『吉原さんに気をつけてって、修哉さんから聞いた』なんて言ったら、アイツの眉間には相当深い皺が出来るだろう。
……その顔が想像出来るから怖い……。
それに、休みのはずのわたしが突然出待ちのように姿を現したら、アイツはどんな反応をするんだろう。
第一、これじゃあまるで、吉原さんと一緒じゃない……。
黒川の冷ややかな反応とかきつい言葉は多少慣れてはいるけど……。でも、吉原さんと同じように思われたら、さすがのわたしも立ち直れない。
俯いて、うだうだと考え事をしていたら、自分のスニーカーの先に靴が入り込んできた。
ふっ、と顔を上げると、わたしを見下ろす飽きれ顔。
「なにブツブツ言ってんだ、さっきから」
「ひぃ!」
「オレは化け物か。古典的な反応しやがって。なにしてんだよ」
片手を首の後ろに添えて、気だるそうに顔を斜めにしながら突っ込まれる。
「古典的」と指摘されたわたしは、両手を横に上げるようにした間抜けな状態。その行き場のない手を、そろりと降ろしながら目を泳がせて答える。
「……い、いや。ぐぐぐ、偶然」
「あほう。オマエは嘘下手だって何度も言ってんだろ。素直に吐けよ」
うぐっ、と言葉を詰まらせたあと、ヤツの鋭い視線にあっさりと降伏して口を開いた。
「よ、吉原さんに……気をつけて、って……忠告に」
「は?」