イジワル上司に恋をして

ほらー!! そういう反応来るってわかってたよ! だから素直に言えなかったんだってば!
その怪訝そうで不機嫌にも見える顔はなに! どーして仕事中みたいに穏やかな顔出来ないのよっ。

落ち着かないわたしはこの場を取り繕うように、ぺらぺらと言葉を繋ぐ。


「わっ、わたしじゃなく! 修哉さんに!」


……あ。……しまった。
あれだけ順序を考えてたはずなのに、結局はめちゃくちゃな伝え方になってるし!

その証拠に、みるみるうちに黒川が険しい顔になっていく。


「いや、あの」
「どういうことだ……?」


声は低く、落ち着いたもの。
だけど、その視線がすごく痛いもので威圧感を感じる。


「たまたま……会って話をしたんです」


わたしがぽつりと話し始めると、黒川は黒い瞳を真っ直ぐと動かすことなくこちらに向けて黙って聞いてた。
その目を見ることが出来なくて、少し視線をずらして続ける。


「本当に、偶然……。アンタと、なかなか連絡つかない、って話聞いて……それで……それで、吉原さんがつい最近まで、修哉さんのところに来てた……って。だから」


だから――それを早くアンタに伝えようと思って……。変なことになって、それ以上傷を作らないように。
まぁ、わたしなんかが守ろうとするのなんて、大きなお世話かもしれないけど。

……けど、どうしても前に医務室で過去の話をしてたアンタの姿が頭から離れなくて。
いつも大きく見えるのに、あの時だけ、小さく感じてしまったから。


「あの人は――」


あの人の、言ってた言葉は。

『わたしはあの頃と同じ気持ちよ?』

そう言ったあの言葉は、真っ赤な嘘。
だから、わたしに説明したことも全部――……。


「あの人が言ってたことは、嘘……でしょ?」


< 301 / 372 >

この作品をシェア

pagetop