イジワル上司に恋をして

あの日、あのときに、今のようにわたしに問い詰めて、聞き出して。そして否定してくれたらよかったのに。
『なにを聞いたんだ』って、吉原さんの嘘をその場で暴いてくれてたら……。

そのときからずっと引っ掛かってたんだ。それがなんなのか、はっきりとわかんなかったけど。

でも、今わかった。

自分だったら、相手に好意があれば……〝好き〟なら。変な誤解をして欲しくない。
誰かになにを聞いたかって気になるし、それが間違いなら訂正するのに必死になると思うし、合っていたとしても自分の言葉できちんと伝えたい。


だからこそ、こんな微妙な気持ちのままなんだ。


黒川がなにも言わない、なにも聞かない。
それが、わたしのことをどう思っているのか現している気がして、憤慨するのと同時に悲しくもなって。

……ひとことだけでいい。
偉そうでも、素っ気なくてもいいから。


ひとことだけ、『違う』って……『彼女(あいつ)の言ってることはデタラメだ』って、言ってよ。


「……さぁな」


たったそれだけで、一気に崩れかけてる気持ちを立て直すことが出来るのに。


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