イジワル上司に恋をして
最悪のタイミング。
こんな顔してたら、西嶋さんは納得できることも出来なくなっちゃうよね。
だって、わたしが逆の立場だったら……意中の相手が苦しそうにしてたら手を差し伸べたくなると思う。
膝の上で両手を握りしめ、視線を下げたときに飲み物が運ばれてきた。
けど、わたしたちはどちらもその飲み物を口にすることなく、ただ時間だけが過ぎていく。
そして、さらに数分経とうとした頃に、西嶋さんがついに開口した。
「……わかった。詳しいことは聞かないよ」
それでもなにも発せないわたしに、溜め息をつくどころか穏やかな口調で重ねて言った。
「メール。いつもちゃんと返事くれてありがとう」
「えっ」
「……本当は、困ってるんじゃないかな、って思って」
「そんなことないです!」
困ってるのは、面倒とか扱いづらいとかそういう気持ちからじゃなくて。
自分の気持ちをどう伝えて、どう行動を取るべきかに戸惑うだけで。
慌てて視線を上げると、運ばれてきたホッとココアのようにふわりとした笑顔を向けられた。
「やっと顔見てくれた」
そう言って、西嶋さんは腕時計をした手でコーヒーを口にした。
それに倣うように、わたしもそっとカップに手を伸ばして両手で持つと口に運んだ。