イジワル上司に恋をして
ドクドクと大きく心臓が音を鳴らす。
路地裏に位置するこの場所は、街中の割に静かな場所で。だから余計にその心拍音が大きく耳に聞こえてくる。
徐々に引き寄せられる体は、いつしかぴたりと添うように抱きしめられる。
こっ、こんな……外で! 西嶋さんがこんなことするなんて!
一気に熱を帯びる体と、冷静な思考になれない頭。
カチコチに固まった体を、ただ西嶋さんに委ねている状態。
「……なの花ちゃん」
胸板に頬をつけているせいか、その声が脳髄まで響いていく。
切ないくらいに締めつけられる胸の痛みを感じて、彼の腕の中で少しだけ距離を取った。
「あのっ……わたしがふらついてるせいで、ごめんなさい。でも」
でも、アイツの存在の大きさは、変わらずわたしの心を占めてるのは変わらない。
「いや。きっとふらついてるのは向こうも一緒だ」
「――――え?」
「なの花ちゃん、ごめん」
聞き返すのと同時に顔を上げた。
そして、そのタイミングで西嶋さんは再び腰に添えてた手を引き寄せると、瞬時にわたしの顔に影を落とす。
柔らかい感触が――……。
頭が真っ白になったままでいると、すぐに彼は唇を離して前傾姿勢を戻した。
それからなにも発さないから、不思議に思ってそろりと目だけを上に向けてみた。
てっきり目が合ってしまうかと思っていたのだけど、予想に反して彼はわたしを見てなかった。
さらに、さっきまでは囁くようなトーンだった声を少し大きくして、突然言い出す。
「これ以上焦らすなら、強引に奪いますけど」