イジワル上司に恋をして

じ……「焦らす」? 「強引に」?? 「奪います」?!
どっどういうこと……っていうか、なんで敬語――……。

ハッとして、視線を西嶋さんと同じ方向へ向ける。
振り向いた先に立ってたのは……。

く……くくく、黒川っ……?!
なに?! なんでそこにいるの、っていうか、見られてた?!
いや、でも今のは……!


「おれ、本気ですよ?」


グイッと両肩に手を乗せて、西嶋さんは自分に引き寄せてみせる。
その手の力の込められ方に、「本気」だと言った言葉が本当なのかもしれないと思ってしまう。

鉢合わせをしてしまって、状況がまだ整理出来ない。
ただ、狭い路地の向かい側に立つ黒川を大きな目で見つめるだけ。

……いや、西嶋さん。そんなこと言ったって、アイツはなんにも言わないですよ。
どうせ、『好きにしたら』とか『そういうのは余所でやれ』とか、そんなことしか口にしないんですよ。

あの男相手に期待なんかしない。

……本当は、1パーセントにも満たないとわかっていながらも期待してしまってる。
その〝期待〟は、期待というよりも、〝願望〟なだけなんだけど。

それに縋ってしまえば落胆の度合いが大きくなる。
だからわたしは、期待しないように……と、自分に言い聞かせてるのに。

三人がそれぞれ視線を交錯させながら黙っている。
その沈黙の時間が長くなればなるほど、わたしの〝期待〟は大きくなってしまう。


黒川、いいから早く、はっきりと言ってよ。
昨日みたいに、バッサリと突き放すなら、早くそうして――。


「なにをそんなに勿体ぶることがあるの?」

< 312 / 372 >

この作品をシェア

pagetop