イジワル上司に恋をして
「相変わらず外面(そとづら)がいいことで」
「……本当のわたしを知ってくれてるのは、優哉だけなのよ」
「……だから、今もオレを好きだって……?」
一瞬で笑顔を消し、冷たい目で吉原さんを見る黒川。
自分に向けられてないのに、ぞくりと背筋が凍る。
「笑わせんな」
――どうして、コイツが今でも吉原さんを少しでも想ってるだなんて思ってしまったんだろう。
あんなに傷ついた表情(カオ)をしてた。あんなに苦しそうな声を出してた。
あんなに不器用に、わたしの涙を掬った――。
彼女が黒川の中に残ってる理由は〝好き〟だからじゃない。
傷がまだ、癒えてないということだけなのに。
「本当よ」
なのになんで。
どうして、その原因であるはずの貴女が、それに気付きもしないで涼しい顔していられるの? 黒川の心の声が聞こえないの?
「本当に今、優哉のことが……」
『これ以上悲しい過去にするな』って言ってるのに。
「なっ……なの花ちゃん……?!」
西嶋さんの手を離れ、足が勝手に動いてた。
背中から西嶋さんがわたしを呼んだのが聞こえたけど、今はそれを気にしてなんかいられない。
……ただ、盾になることに必死だった。
「嘘を、つかないでください」
吉原さんとの間に立つと、黒川に背を向けて両手を広げる。
オトナな二人の間に割り込んで、こんなコドモのわたしがなにかするなんて笑われるに違いない。
それでも、居ても立っても居られない。