イジワル上司に恋をして

「……はぁ? 嘘ってなによ」
「この人に、何度も同じ嘘をつくのはやめてください」


キッと鋭い視線を真正面の吉原さんにぶつけながら言った。
こんなに人を睨みつけるなんて、産まれて初めてだと思う。だからなのか知らないけど、吉原さんは、驚いたというだけで、全く怯んでなんかいなかった。

コツコツとヒールを鳴らし、ゆっくりとわたしに向かって歩いてくる。
そして、コツッと足を止め、耳元に囁いた。


「この間話したでしょう? 昔嘘をつかれてたのはわたしの方よ」


吉原さんの言葉に、心がぐらつく。
黒川からはなにも詳細を聞いてない。そのせいで、100パーセントの自信が持てない。
……だけど。


「いいえ。わたし、知ってますから」


思い切り口から出まかせ。声がほんの少し震えてしまった。
どうか、足も震えてることに、気付かれませんように……!


「へぇ? 本当に?」
「汚い手でこいつに触るなよ」


嘲笑うように言って、手入れの行き届いた綺麗な指先をわたしの頬に伸ばしかけた。びくっと肩を上げたところで、真後ろから聞こえてくる。
そして、しなやかな腕を絡ませるように、わたしを後ろに引き寄せた。

一瞬の出来事。でも、信じられない大事件。

……嘘。まさか、こんな形で逆に助けられるなんて想像も出来なかった。
今回はそうやって引き寄せるの? 前回は突き放したくせに。

締めつけられた心臓の痛みを感じながら、頭で文句を浮かべる。
でも、本当は……泣きたいほど、うれしい。

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