イジワル上司に恋をして

「……ひどいわ……あれから何年経ったと思ってるの? 優哉……ッ」


見ると、さっきまでとはまるで違う表情。
彼女は長い睫毛に大きな雫を挟めたまま、潤んだ瞳を黒川に向ける。

その涙がホンモノかニセモノか……。呆然と黒川の腕の中から眺めていると、頭上から冷ややかに言葉が降ってきた。


「アンタの涙なんて、なんの価値もねぇよ」


全く揺らぐことなく言い捨てた言葉に、吉原さんの涙が気付けば消えていた。


「偽物は、何年経ったって偽物だ」
「……どうしてそんなこと言えるのよ……」


この人は強いから、黒川のそんな言葉だけじゃダメだ。ほとんどダメージ受けてないように見えちゃう。
修哉さんが言ってたように、人を惑わせるほどのものを、この人は持ってるんだ。

目前に映るのは、可憐に昔の男に縋る女性。
隙という隙をまだみたことのないわたしは、どうにもできなくて彼女を見つめるだけ。

すると、突然吉原さんの目の色が変わった。


……え? なに? なんで急にそんな顔に……。


目を少し見開いて、内心首を傾げて彼女を見る。
その視線は当然わたしになんか向けられてなくて、後ろ……黒川に向けられたまま。

だけど、ついさっきまで、黒川を見る目がそんな目になることなかったのに……。

ゆっくりと頭を回し、黒川を見上げる。
ヤツは、相変わらず冷たい表情で、なにかを手にしていた。


「汚ねぇオンナ」


この角度からは正確に確認出来ない。でも、黒川が手にしてるのって……写真……?
それも一枚じゃないみたい。何十枚かありそうな……。


「これ。なんだか見えねーの? ホラ」

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