イジワル上司に恋をして

黒川が突き出した手にあるものを、顔を歪めて見る吉原さん。

なに? なんなの、コレ……。
あの吉原さんをこんな顔にしてしまうほどのなにかが写ってるっていうの?


「ついこの間までの日付入り。5人以上のオトコと同時期に。で、その中の一人だけ、〝特別〟がいたんだろ? ほら」
「なっ……なんで……!!」
「修哉と連絡取ってないと思って油断でもしてた?」


さらに別の写真を見せると、さすがの吉原さんも声を失う。

その真相がすごく気になるんだけど、ここからじゃなんにも見えない。
コイツ……一体なにを突きつけてんの?


「金持ってそうで、まーまーなオトコじゃねぇ? ま、どっちにしてもアンタには勿体ないけど」
「ち、違うわよ。わたしがこの男を振ったのよ! お金と見た目だけで、誠実さがなかったから……っ」
「そりゃお気の毒に」
「……そうよ。傷ついたのはわた――」
「相手のオトコが」


一度、希望の目を向けて一歩前に出した彼女を、後ろに立つ男はバッサリと切って捨てた。
強張った表情に戻った彼女から目を離せないでいると、ふわりとまた、首元に逞しい腕が絡みつく。


黒川の、匂い――。


「うちの大事なモン、穢すなよ」


頭を胸に引き寄せられて、唇を髪の毛に触れさせながら黒川は言った。


「コレ。縁起悪くて客が来なくなりそうだから、持ってけよ」


黒川は淡々と言葉を重ねると、手にしていた写真を目の前の彼女の足元に投げ捨てる。
ひらひらと数枚低く舞う写真に無意識に視線を落とすと、ベージュのパンプスが一歩後ずさった。
細い足を上に辿っていくと、下唇が見えなくなるほど噛みしめ、しかめた顔をした吉原さんに気付く。

< 317 / 372 >

この作品をシェア

pagetop