イジワル上司に恋をして

「〝記念にどうぞ〟?」


「記念にどうぞ」。それは、よく耳にする言葉。
ブライダルの仕事上、写真をはじめ、小物など、披露宴や挙式で使用したちょっとしたものを差し上げるときに何気なく口にするもの。


だからこそ、その言葉が今場違いな気がして黒川の顔を見てしまった。

彼の顔は――――。とても美しく、気品があるような笑顔をたたえ、そして、瞳は決して温かなものではなかった。


けれど、どうしてだろう。


『怖い』とは思わなかった。それどころか、手を伸ばしたくなるような……。

『痛い』と勝手にシンクロするのは迷惑かもしれない。

『辛い』と簡単には口にできない、複雑な感情。


……もしも。受け入れてくれるなら、いつものような憎まれ口だって黙って聞いて、この手を差し出してアンタの顔(こころ)を覆ってあげるのに。


「……っ、そこの彼氏さん? せいぜい気をつけるのね? この男は略奪するのが得意だから」


目を離していた隙に、吉原さんはすでに逃げ去る途中で。その去り際に、まるで捨て台詞のように西嶋さんに向かってそう言った。
気まずい雰囲気を思い切り残すように。

あっという間に姿を消した吉原さんを全員が見つめ、再び静寂な空気になり変わる。


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