イジワル上司に恋をして
そう。すっかり忘れてた……わけじゃないけど、西嶋さんもこの場にいた。
気まずい原因は、吉原さんの言った言葉だけじゃない。
わたしがコイツを庇うように飛び出してしまったのも、かなり動揺してしまうひとつの原因。
いや……でも、わたしの気持ちはもう西嶋さんにはバレてたはず。
ただ、それをきちんと言葉にして先に伝えなかったのが……やっぱり後ろめたい。
沈黙の中、横目で西嶋さんを見ると、彼もまた何から口にすべきか悩んでる様子。
すると、口火を切ったのは隣の男。
「ギャラリーがいてくれてちょうどよかった。そのくらいの方が、堪えんだろ」
フッと軽く笑い、まるで大したことじゃなかったかのように言った。
拍子抜けするくらい、元通りの口調。
やっぱり、コイツ、タダモノじゃない。
それを受けた西嶋さんが、ようやく口を開いた。
「……まさか、これ、狙ってたんじゃ」
「まさか。偶然のなにものでもない。〝西嶋くんと違って〟な」
は? 西嶋さんと違って、ってどういう意味?
なにこの二人。またわたしのわからない会話を交わしてる!
きょろきょろと、二人の顔を交互に見やって会話の意味を考える。
でも、当然、わかるわけもない。
「……この人は、一体なにを」
西嶋さんが、自分の足元に飛んで来ていた写真を一枚拾い上げて言った。
黒川は、ダルそうにネクタイを緩めて軽く首を回して聞き返す。
「……知りたいか?」
「はい。……それによっては、彼女をここから連れていきますから」
な、なんか吉原さんがいなくなっても、別の件での気まずさが健在ですけど!
……でも、わたしも知りたい。
この写真と、彼女のことを、黒川本人の口から。