イジワル上司に恋をして
「へぇ。じゃあ、就職決まんなかったクチ?」
さらりと毒を吐かれたわたしは、あろうことか、またヤツの顔を見てしまった。
きっと、人間は反射的にそう動いてしまうんだ。
『こんな優しさのかけらもないことを言える人間ってどんな顔してんだ』ってな具合に。
見上げた先にある顔は、仕事あとだと言うのに疲れ顔なんて知らなそうなイケメンだった。
ついでに言うと、そのモテ顔が、超憎たらしい嫌味な笑みを零してやがる。
「……黒川――――部長は。なんで、今日、こんな時間に上がってるんですか」
一応“部長”ってつけてやったけど。
でも、言葉の内容は、わたしの精一杯の嫌味。『他の社員はまだ残ってるのに、上司である男が早々に帰宅ってどうなんだ』、という。
ちょっと強気な発言をしたわたしは多少ドキドキとはしたけど、それよりも“言ってやった”感のほうが大きくて、少し満足してた。
けど、そんな満足感を得たことまで悟ったかのように、短く鼻で笑われた。
「急な異動で引っ越しギリギリだったからな。そういう期間を設けてくれてるンだよ、会社ってのは」
「急……って……」
でも、あのバーで会ったのは、2週間くらい前だった気が……。あのときには、この地域に来てたんじゃなくて?
「オマエみたいな、ボケッとしたヤツを採るなんて。ウチの会社、よっぽど変わりモノが好きなんだな」