イジワル上司に恋をして
「優しく、したい」
吉原さんや、修哉さんからじゃなくて、黒川から聞くことに意味がある。


「あの女は……昔、オレが好きだった女」


出だしから打ちのめされるような話に、もうすでに心が折れそう。

いやいや! なの花! ここまで来てなにを言ってるの!
どうせダメだと何度も挫けたんだから、最後の一回や二回のパンチなんて、どうってことないでしょ!

自分に喝を入れて、なにも言わずに話の続きを待つ。


「……そして、修哉の……オレの兄貴の元カノってやつだ」
「え? それって、お兄さんの前後にあなたがあの人と付き合ってたってことですか?」


西嶋さんはわたしと違って、的確な質問を瞬時に投げかける。
前に医務室でぽろりと聞いたとき、わたしもそれが聞きたかった。


「――いや」


そして、その答えを黒川がとうとう口にし始めた。


「前後じゃない。〝同時期〟だ」
「どっ……?!」


思わず声を上げたのは西嶋さん。

そうだよね。無理もない。
同時期に、しかももう一人の相手が実のお兄さんだなんて。


「元々修哉の彼女だったんだ。オレはそれを知らなかった。……でも、あの女は知ってて近付いてきてたんだ」


考えたくなかったけど、そうなんだ。

だって、この間見たとき、修哉さんと黒川は本当に似てたから……。職場が一緒ってだけのわたしがそう思うくらいだから。
もしかしたら、今ほど当時は似てなかったのかもしれないけど。でも、修哉さんと付き合ってた吉原さんなら、ちょっとは気付いてもいいはずなんじゃないかって思ってた。


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