イジワル上司に恋をして

一人で片手を顎に添えて、目を閉じながら「うんうん」頷いていると、黒川の声がやけに自分に聞こえるような気がして目を開けた。


……は? なんでわたしの方を見て……。
えっ! もしかして、さっきの西嶋さんとのこと言ってる?!
わたしが『西嶋さんに振られたのに、意地でも縋りつきたくて迫った』とかって思ってる?!


「ちちち、ちがうっ!! さっきのはっ! 第一……っ」
「オマエ。西嶋くんに〝奪われた〟ほうがいいかもよ?」
「はっ? な、なにそれ」


間近で見上げるヤツの表情の裏側が読み取れない。
冷静な顔で、でも言ってることは意味不明。

だけど、いつもみたいにからかうような捻くれた笑みもないし、鼻で笑うようなこともなく。


「猶予時間、残り3秒」
「えっ! ちょっ、ちょっ……!!」


腕時計をわざとらしく見ながら与えられた3秒。

3秒なんて、考えるヒマもないじゃない!

あたふたと落ち着きなく目や手を動かす。
視線の先に西嶋さんを捕らえたところでタイムアップ。


「……じゃ。忠告意味ナシってことで」


その黒川の声と同時に、長い片腕が体に絡みつく。


「えぇっ……?!」
「……アンタも。コイツと一緒でお人よしだな。……まぁ、その好意、遠慮なく頂くけど」


グイッと手に力を込められると、簡単にわたしの身体は黒川に捕まる。
背中に感じる黒川の身体の熱が、わたしの体温をこの上なく熱くしていく。

半ば強引に引き寄せられたから、バランスを取るために無意識にヤツの腕にしがみついた。
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