イジワル上司に恋をして
「イマドキ小学生でもそんなことしないと思いますけどね」
しれっと西嶋さんの反撃が繰り出されると、黒川はなんにも言わずにたださりげなく顔を逸らしてた。
そして西嶋さんが立ち去ろうとしたから、慌てて声を掛ける。
「にっ、西嶋さん! すみ――」
「謝らないで。もう、たくさんその言葉は聞いたよ」
「……ありがとうございます。やっぱり西嶋さんは、想像通り素敵な先輩でした……!」
西嶋さんは、もう振り向いてはくれなかったけど、足を止めてくれた。
本当はもっともっと、上手くこの気持ちを伝えたかった。けど、わたしの言葉はどれだけ紡いでも陳腐なものになりそうだし、なにより、ただたくさん言葉を並べればいいっていうものでもない気がした。
「それはプラスに捉えるとするよ。じゃあね」
最後は少しだけ。顔を横に向けてはくれたけど、表情までは見えなかった。
だんだんと遠くなる背中を見つめて、完全に見えなくなったところで俯いた。
「……あ」
視線を落とした先に見つけたものは、黒川が放った写真。
これ。別に見たくもないけど、だからってこのままにしておくわけには……。
大体、裏口とはいえ会社の前なわけだし。
とりあえず回収しなきゃ。
こんな流れで、好きな人の元カノの直視出来ない写真を拾い集める滑稽なわたし。
……でも、仕方ないじゃない。気持ちの問題よ。
一人問答をしながら黙々と拾い上げてると、呆れた声が降ってきた。
「……はぁ。すごいな、オマエは」
屈んだ状態で見上げると、さらりとした髪を垂らしながらこっちを見ていて。
それをさりげなく片手で掻き上げながら、わたしの隣に並ぶように膝を屈めた。