イジワル上司に恋をして
いつもはショップの方から入るから、サロンの入り口から入るのは新鮮だ。
黒川がポケットから鍵を取り出してドアを開けると、薄暗いサロンに足を踏み入れた。
後を追うように、黒川が内側からしっかりと施錠して歩を進めてくる。
薄暗いっていうのが、またなんか緊張感を増させる。
だんだんと近づいてくる黒川に、どう対処していいのか頭をフル回転させてたら、靴一足分開けたところでヤツは立ち止まった。
「休憩室。なんか飲みモン――」
「作ります」
黒川の言うことを先に奪って言うと、内心、この緊張感を少し落ち着けるにはうってつけだと胸を撫で下ろす。
休憩室に先導するように入ったのはわたし。
ぱちっと電気をつけると、暗い所に慣れてた目が開かなくて、少しの間細めた。
すぐに目も慣れてきたときには、黒川は早々に椅子に腰をおろしてた。
「あー……コーヒーでいいですか?」
「ああ」
「砂糖は……」
「入れたらコロス」
なんて口が悪いんだ。
でも、ブラックだろうとわかっててワザと聞いたわたしも悪いんだけど。
お湯を沸かしてコーヒーをセットする。
カップはそれぞれのマイカップを用意して。わたしはミルクを入れよう。
ポーションミルクをふたつ用意してる間に、やかんがシュワシュワと音を上げた。
いつものようにコーヒーを淹れるだけなのに。
それをアイツが飲むっていうのと、背中に感じる視線で上手く淹れられない気がする。
どうにかコーヒーを2杯淹れて、カップを両手に持ち振り向いた。