イジワル上司に恋をして

「……お待たせしました」


コトッと腕を組んで待ってた黒川の前にカップを置く。
無駄に長い足を優雅に組んでいるヤツの向かいに、身を小さくするようにして腰かけた。

やること終えたら間が持たない……。

なにからどう口にしていいのかわからなくて、その間を埋めるために、ミルクを開けてゆっくりとコーヒーに注いだ。

白い粒が黒い水面に弾けて混ざる。
あっという間に染められて、2個目を入れ終わったときには綺麗な褐色になっていた。


「……残業。『責任』とかって言ってましたけど……あれ、どういうことですか」


くるくると回すティースプーン一点を見つめながらぼそりと聞いてみる。
視界ギリギリに、黒川に置いたコーヒーも見えるけど、アイツもどうやらまだ口をつけてないらしい。

もう何回目かのスプーンの回転のときに、ようやく黒川が口を開いた。


「そのままの意味。アイツが、オレのとこに来て言ったんだよ」
「え? 西嶋さんが? 何を?」


驚いて、手を止めて顔を上げる。
すると、黒川は面白くなさそうな顔で組んでいた腕を外し、右手で頬づえをつく。


「『8時頃、裏で待ってる』とだけ一方的に言っていなくなった」


……8時? それって、ちょうどわたしがいつも上がって帰る頃……。


『たぶん、従業員出口の前かな? 裏側の』

あの言葉から、西嶋さんは引っかけてたんだ。
わたしと、コイツを。


「だから、早々に切り上げて行ってやったんだよ。その用件が長引いたら困るから、全員上げさせてからな」


ムスッとしたまま、伏し目がちにぶつぶつと言う。
さすがにコイツでも、騙されたというのは内心面白くないらしい。

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