イジワル上司に恋をして

「まさか、あんな仕掛けが待ってたとはね」
「……あっ! 吉原さんの写真とか……! あれはなんで」


「あんな仕掛け」についての話題を逸らすために、思わず一番しちゃいけない話を振ってしまったかもしれない。
でも、もう遅い……よね。


頬づえで俯きがちのまま、切れ長の瞳で視線を向けられどきりとする。
背筋を伸ばすと、短い溜め息をついてヤツが言った。


「修哉に……会ったから」
「え! 修哉さんに……?!」


会ったんだ! そうか……修哉さん、連絡取るっていってたもんね。
でもだったら、昨日、わざわざわたしが口出しすることでもなかったな……。直接修哉さんに聞いた方が手っ取り早かったわけだし。

……だけど、修哉さんと会って、黒川自身は大丈夫だったのかな……。
黒川って、お兄さんの修哉さんをどう思ってるんだろう。

元々好きとか苦手とか。仲が良かったとか、そういう関係によって、感じ方とか接し方とか変わってくると思うし。


「オレたち兄弟のことが『気になります』って、わかりやす過ぎ」
「えっ」


やっぱり?! いや、途中で難しい顔してる自分に気付いたから、真顔にしようと努力してたのに!


「別にフツーの兄弟。仲悪くもないし、ものすごい良いわけでもない、普通の」


……「普通」は、お兄さんの連絡避けたりしないと思うんだけど。
それは、吉原さんに出会う前のことじゃないの? 今はどう思ってるのかな……。

観察するように黒川を正面から見るけど、いつもと同じように話もしてるし、さらに頬づえで顔半分隠れてるようなもんだから微妙な表情の変化が読み取りづらい。
それは敢えてのことなのか知らないけど。

変わらず手のひらで口元を覆ったまま話は続く。

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