イジワル上司に恋をして
なんなんだろう、この人は。
なんで、出会って間もない人間に。しかも、相手は明らかに歳下の女子で、部下なのに。
よくもそういうことを平気な顔して言えますね! 今まで嫌われたこととかないわけ? ……あ。
信号で立ち止まったときに、微妙な距離の隣に立つ男を見上げる。
その視線に、少し疑問の色を目に浮かべたそいつから、ぷいっとあからさまに顔を背けてやった。
……そうだ。そうだよね。この人、嫌われるわけないんだ。
だって、完璧だもん。
仕事中のこの人は、完全に“イイ上司”を演じてる。わたしだって、就業中は錯覚を起こしそうになった。
あー、もう。その辺りからして要領よくて、つまりは運と目標がなく、かつ不器用なわたしとは正反対ってわけだ。
敗北感に似たなんだかわからない感情で、いつもよりも断然長く感じる信号に、わたしは腕を組んで小刻みに体を揺する。
そして信号機一点を見つめてると、横からソイツが言った。
「なに考えてんの? オマエの妄想に、オレ使うのは勘弁しろよ」
「……はあぁ?! そんなこと、絶対しませんからっ」
「つーか、もうちょい寄れよ。濡れるだろ、オレが」
こんな自己中発言するような男で、なにをどう想像すれっていうの?
でも気付かれないようにコイツを見ると、本当に肩が濡れてたから、仕方なく一歩だけ……いや、半歩、わたしは傘の中央へと移動した。
その瞬間だった。