イジワル上司に恋をして
「久々に会ったけど……向こうも普通。……普通に協力してくれた。あの写真」
あの写真。さっき拾い上げたときについちらりと見ちゃったけど。
黒川が言ったように、いろんな男の人と、腕を組んだり、食事したり……キス、してたりしてた。
「あれ。修哉が興信所使って手に入れたモンらしい。物証見せつける前に、言葉だけで簡単に引き下がったからおかしいとは思って……オレのとこが気になった……ってとこか」
「興信所……」
そこまでしたんだ。そんなにひどいことされたのかな……?
「普通なら、そこまでしないで様子見たかもしんねぇけどな。タイミングがタイミングだったから」
「?」
「近いうちに結婚するらしいから。問題は先に片付けたかったんだろ」
「えっ!!」
結婚?! そうなの?! そうだよね! 黒川のお兄さんってことは、年齢的にもそうなっておかしくないもんね!
あの二人が結婚……お似合いだなぁ……。
宙を見ながら二人を思い出し、束の間の幸せ気分に浸る。
だけど、ほわっとした温かい気持ちのわたしはすぐに正気に戻った。
黒川の声で。
「……修哉が幸せそうな顔してて、よかった」
黒川は、いつの間にか口元を覆っていた手を外していて、姿勢悪く背もたれに体を預けてた。
テーブルのコーヒーよりも、もっと奥に視点がある黒川は……昔を見つめているように思えた。
「15ん時……オレが、なんにも考えないで、香澄と関係を持って。真実が明るみに出たときに……全部、怖くなった」
「……っでも、知っててそうなったわけじゃ――」
「知ってた」
「……え?」
「……知ってた。他にオトコがいることは」
まるで懺悔をするように。
黒川は少しずつ頭を垂れて、脱力したように肩を落としながら静かに話す。