イジワル上司に恋をして
「『彼氏と上手くいってない』……そういう相談をしてきた。歳下でガキのオレは、頼られてる気がして舞い上がってたんだよ。慰める役に酔いしれながら、『香澄にはオレがついてなきゃいけない』なんてバカみたいなこと、真剣に思ってたんだよ」
15歳の黒川……。
まだコドモの部分もあって、自分に正直で。でも、不器用なところと、生意気なところは今も同じかもしれない。
向かいに座る黒川に、見たこともない15の黒川を勝手に重ねて見つめる。
「……彼氏(オトコ)が修哉だってわかったとき。香澄の言っていたことは全部嘘だったってわかった。本人は認めなかったけど、そんなのムダだ。
オレたち家族なんだから……修哉がどんな性格で、毎日どんな顔して生活してたかっていうのはオレが一番わかってたんだから。
だから、修哉が〝彼女〟を傷つけるような行動なんかしてない、って断言できた」
目の前の黒川は、まるで15歳のようにも見えた。
そのときに遡った黒川は、全ての膿を出すように悲痛な面持ちで、普段はひとつも口にしたことのない本心を吐露する。
「『知らなかった』じゃ言い訳にならない。例え相手が修哉とは知らなかったとしても、他に相手がいることは知ってたんだから」
変なところが真面目で――。
「修哉は許してくれた。むしろ同情してくれたくらいだった……だけど、オレは今になっても……なにをしてても罪悪感が消えない」
普段の姿からは想像も出来ないくらいに繊細。
「誰かを傷つけるのはもうたくさんだ」
大きな体をしていても、実は心の一部はまだ少年のまま。
「……本当は……それは建前で……傷つくのが、怖い」
それは、初めてこの人の本質(こころ)に触れられた瞬間。