イジワル上司に恋をして
いつの間にか、ふと、抱きしめてたはずが抱きしめられてる感覚になる。
きっと、黒川の手がわたしの背中にまわされたから、だ。
こんなこと、昨日までの黒川がしてくれるなんて思うはずもない。こんな、壊れ物を扱うような優しい手つきで包み込まれるなんて。
……それにしても。
「……こ、こういうギャップって……わたしみたいな女子は……夢見ちゃうんですけど」
自分だけ(トクベツ)だ――って。
そう、思ってもいいんだよね……? 後から『冗談』とか、そんなオチ、ないよね?
信じてないとかそういうことじゃなくて、これはまた別の話。
やっぱり、好きだから不安になることって、きっとずっとあることだと思う。これは、その代表的なものだ。
「……妄想女子」
「なっ、なによ……」
「オレも最近、オマエの妄想癖移ったのかも」
「ひっ、人のせいにしない……で……よ?」
……へ? 今、なんて言った……?
黒川が、「妄想」……??
「……こんな、都合のいい……妄想」
椅子に掛けてる黒川が、背中の手を緩めわたしを見上げる。
クイッと腕を引っ張られ、伸びてきたもう片方の手が首の後ろに回ると、ひとつの〝予感〟。
――直後。
それは、4度目の感覚(キス)。
でも、今までのものとは少し違う。
求められるような、必要とされるようなキスは、全てを忘れさせてしまうくらいの威力。
重ねるだけのキスから息継ぎの間だけその距離を離し、そして再び覆われたときには、奪わるような深いキス。
時折、優しく啄ばむように……愛でるようにされながら。
柔らかな感触が遠のいてしまったときに、薄らと目を開ける。
すると、黒川もゆっくりと目を開き……。