イジワル上司に恋をして

言わんとしていることを理解したのと同時に、噛みつくようなキスが待っていて。
動揺したわたしは、ガタン、と音を立ててコーヒーを少し零してしまった。

テーブルの上の右手に少し掛かったコーヒーは、いつしか冷めてて生温かった。
まるで、今されてるキスのように、心地よい温度。


「んんっ……ぅ」


角度を変えて何度も繰り返される行為は、唇を重ねる回数が増えるたびに熱を帯びていく。
それに伴って抜けゆく力。そこをわかっていたかのように侵される口内。歯列をなぞられたかと思えば、縮こまってたわたしの舌をいとも容易く絡め取る。


「……ぁ」


眉を下げ、頬を紅潮させ、吐息混じりに漏らす声。
自分で自分じゃないみたいな感覚。

さっきとはまた違う。
黒川が立ち上がって、形勢が逆転しただけなのに。
上から責められる貪りつくようなキスに、されるがままでついていくのがやっと。


……これ以上されたらッ……し、心臓がもたないッ……!


ぎゅ、とコーヒーが掛かった手を、無意識に黒川の袖口に持っていって握った。
それに気付いたからか、黒川はゆっくりと唇を離す。

荒い息遣いを隠すようにして、涙目で睨んだ。


「……っ、これからはっ……! そういうやり方、やめてくださいねっ。刻みつけるなら、もっと違う形でしてくださいっ」


ここでもやっぱり、気持ちが昂ぶってしまって。
うっかり目から涙を零してしまう。

それを驚きの眼差しで見たあとに、黒川は極上の笑みを浮かべた。


「その涙……なんでか弱いんだよな……」


そして微かに笑ったまま、さらに、困ったように口にした。


「……努力する」


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