イジワル上司に恋をして
「オマエがきっかけだ」


それから数日経った、ゴールデンウィーク開け。
今日は黒川が休み。
緊張感がなくなって、いいような……でもちょっと、淋しいような……。


「すーずーはーらーさんっ! またぼんやりして! ……あれから、どうなりました?」
「ぅわっ……!」


心ここに非ずで缶を積み上げているところに、美優ちゃんが背後から突然声を掛けてきた。

び、びっくりしたぁ、もう!
毎日毎日びくびくしっ放しっていうのがクセになってるのか、最近のわたしはすぐに驚いてしまう。

それもこれも、アイツのせい。

アイツがいつ、あの日のような顔になるのか考えてるだけで、毎日無駄に緊張しながら仕事しているのだ。

……けど、実際はそんな構える必要もないほどにいつも通りで。
その〝いつも通り〟というのは、本当に今までと変わらず。わたし以外のスタッフや、お客さんにはニコニコといい顔して、影でわたしだけに毒を吐く。


「どっ、どうもなにも……なにも変わんないけど……」
「えー。そうなんですかぁ? それはなんだかすっきりしませんねぇ」


……本当は、ひとつだけ。変わったことは、ある。
それは、誰にも見られてない瞬間に、よく、ぽん、と手を頭に乗せられること。
そして、去り際には、ほんの一瞬だけ笑ってくれるようになった。


「……あれ? 顔赤くないですか? 具合、悪いですか?」


そんな些細なことだけで、未だに顔を赤くしてしまうくらいにわたしは翻弄されている。


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