イジワル上司に恋をして
「だっ、大丈夫大丈夫!」
「こんにちは」
美優ちゃんに顔を覗きこまれているところに、背後から声がした。
慌てて振り向くと、そこに立つ人を見て絶句した。
「い、いらっしゃいませっ」
「あ、どうも」
声も出せずにいたわたしの代わりに、張り切って言葉を出したのは美優ちゃんだ。
そりゃ、そういう反応になっちゃうよね。
わたしもきっと、初めて見たときはそういう顔になってたと思うよ。
ちらりと美優ちゃんを見てそう思う。
目の前にいるのは、キラキラとしたオーラと笑顔の修哉さん。
あまりに眩しすぎてサングラスが欲しいなんて、バカなことを考えてしまうほど爽やかでイイ男だ。
その証拠に、美優ちゃんの目が明らかにハートマークになっている。
「仕事中にごめんね。この前ようやく勤務先聞いたから」
修哉さんがそういうと、美優ちゃんがハッとして、気を遣うようにその場から離れて行った。
……でも、レジ付近から痛いほどの視線を感じるけど。
「あ……そうだったんですか。でも、今日アイツ休みで……」
「ああ、うん。知ってるよ」
「ふっ」とおかしそうに笑って目を細めた修哉さんに、わたしは首を捻る。
アイツが休みって知っててここに来る用事ってなんだろう?
そして、なにがそんなにおかしいんだろう……あ。
段々と自然に角度がついていく頭が、それ以上傾かなくなったときに失態に気付く。
い、今、わたし、黒川のこと「アイツ」って口に出してしまった……!
うっかりとはいえ、まさか実の兄である修哉さんの前で……!
「〝アイツ〟とさっきまで一緒だったからね」