イジワル上司に恋をして

くすくす笑ってわざと言われると、顔を赤くするだけでなんにも言えない。


「でも、俺がここに来てることは知らないよ」
「え? あ……そう、なんですか」


じゃあ、何をしに来たんだろう?
ますますわからないことに、これ以上首は傾げられないし、どうしようもない。


「なの花ちゃん。携帯電話って、今ある?」
「へ? あ、はい……ポケットに」


ポケットに手を入れながら言うと、なぜか修哉さんがうれしそうな顔をした。


「番号、教えてもらってもいい? で、俺たちの番号も入れといて」
「え?!」


「俺たち」……〝たち〟って……。


綺麗な指の手のひらを差し出されて、わたしは言われるがまま、ロックを解除した携帯をその手に預けた。

修哉さんに対して、不思議と一度しか会ってなかったけど不信感はなかったから。
というのと、今言われた言葉に引っ掛かって。

俺たちっていうのは、修哉さんと……もしかして、アイツのことを言ってる……?

何を隠そう。あれから確かに数日しか経ってないけど、わたしと黒川との間で連絡先の交換というものは一切交わされてない。
聞かれることもないし、聞くなんてこと、当然わたしなんかが出来るわけもなく。

でも、毎日のようにここで顔を合わせるわけだから、そんなに焦ったりもしてなくて。


「あ。俺〝たち〟、ここで式挙げようかなぁと思って」
「へっ……?!」
「だから、色々と相談したいことも出てくるかもしんないし。女同士の方がいいこともあるだろうし、ね?」
「お、女……同士……」


っていうことは……。


「うん。本人の希望もアリで。あとでメールしてやってくれる?」
「えっ! いや、それはいいんですけど、でもっ」


わたし、ブライダルのスタッフじゃないのに!
相談とかされても、まともな答えも出来なくて困らせるだけだよー!

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