イジワル上司に恋をして

〝俺たち〟というのが、修哉さんと、彼の彼女さんのことだとわかると、それはそれで慌ててしまう。
けど、修哉さんはそんなわたしに「じゃあよろしくね」と、ポンと携帯を返す。そして軽く手を振って行ってしまった。


え……えぇー……どうしよう。


ぽかんと入口を見たまま立ち尽くしていると、後ろから覗きこむように美優ちゃんが来る。


「鈴原さんっ! なんですか!? 今の超絶爽やかイケメンはっ!」


……確かに。気になるところだよねぇ。こんなわたしにあんな来客なんて。
なんなら自分自身でもまだびっくりしてるし。


「えー……と……ちょっと、ね」
「『ちょっと』なんですか! もしかして、この前から悩んでるのってあの人のことですか?!」
「ちっ、違うし!」


そうして、その日は美優ちゃんがヒマさえあれば、修哉さんの話をしてきてすごく疲れた。

別に修哉さんとなにかあるわけじゃないんだけど、でも何より黒川のお兄さんってとこが大問題だし。
なんで黒川のお兄さんがわたしに会いにきたんだって話になるでしょ、普通に考えて。

大体、わたしと黒川の関係って公にしていいものなんだか、なんなんだか。
わざわざ触れまわるつもりはもちろんないけど、でもそれによっては身の振り方を考えなきゃならないというか。

……アイツ。そういうこともなんにも言わないし。
放置プレイってやつなの? コレ。

「はぁ」と短い溜め息をついて、ロッカーを閉めた。

いつも通りに会社を出て、しばらく歩いていた時に携帯が振動していることに気がついた。

自慢じゃないけど、滅多にならないんだよね、わたしの携帯。

そう思って、すっと手にした携帯を見て頭が真っ白。

【黒川優哉】
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