イジワル上司に恋をして

一体なんだこれは、と目を疑ってしまう。
でも、現実に手の中の携帯は震えてるし、画面に出てる名前も一字一句間違いなく、アイツの名前。

……もしかして……。あのとき、修哉さん……!
ピンと原因を閃いたのはいいけれど、この着信をどうすれば!

鳴りやまない電話に、いよいよ覚悟を決めて応答する。


「……は、い?」
『遅い』
「だ、だって!」
『明日。ちょっと話あるから早く出て来い』


こっ、このヤロウッ。開口一番に文句を発して、さらには相変わらず健在の命令口調。


「話って! それならこの電話で済ませばいーんじゃないんですかっ」
『今日はこれから〝別件〟がある』


即答されてしまうと、それ以上何も言えず。

……全く。この男。この前だよね? つい最近、確かにコイツがわたしを抱きしめて、そして笑って……「努力する」って言ったよね?
コイツの努力ってどんななんだ。少しはこの電話で期待しちゃってるわたしのこととか考えてはくれないのかなぁ!


「あーそうですか。どーせわたしへの用件は後回しです、よ……」


俯いて乱暴な歩き方をしながら信号を渡り切る。
ふっと顔を上げたときに目に飛び込んできたのは、今、耳元で聞こえてた声の主。


『イライラしながら歩いてんなよ、ガキ』
「なっ……なんで!」


目を白黒させてると、耳にあててた携帯からはもう何も聞こえなくて。
代わりに、直接わたしの耳に届く声。


「ほら。さっさと行くぞ」

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