イジワル上司に恋をして
ジリジリと、黒川に詰め寄られて、いつの間にか背に壁が当たってしまう。
さらりとした前髪を揺らすように、わたしの顔に影を落とす黒川から目が離せない。
節ばった綺麗な男の人の指が、わたしの鎖骨に伸びてくる。
ツッ、と指先が触れただけなのに、その一瞬で体温が沸点に達してしまいそう。
「どうせ訴えられんなら、これ以上のことでもしようか」
目を意地悪く細めて、低い声で囁く。
シャラッと制服のシャツから出されたのは……ミルククラウンのネックレス。
前に見つけたけど、手に入れることが出来なくて断念したそれは、昨日黒川から受け取ったあのチョコレート色の小箱におさまってた。
たぶん、修哉さんの彼女さんから聞いたんだ、って思った。
でも、聞いたからってまさかコイツがそれを素直にわたしにプレゼントするなんて。
「……ちょっとくらい、理想の妄想っぽいことしてやるよ。なの花」
クイッと顎を持ち上げられて、返事を聞かぬ間に唇を塞がれる。
あまりに突然のことで、目を閉じるのが一瞬遅れてしまった。
でも、だから、見えた。
その僅かな一瞬で、ふっと柔らかく笑った、あなたの顔を。
わたしがこの人になにかしてあげただなんて、今でも自信はないけど。でも、このミルククラウンを見るたびに、黒川の気持ちだと実感が湧いてくると思うから。
「んっ……」