イジワル上司に恋をして
それを聞いたわたしは、そこだけは賛同出来なかった。まぁ、別に否定もしないで、ただ聞いてただけなんだけど。
だって、アイツに“ブライダル”って。
契約は取れるんだろうけど、アイツ、根本的にブライダルから遠い存在な気がするけど。
表向きはニコニコしてたって、結局裏の顔はあんなだし。
このちょっとの期間だけだけど、アイツの言葉の端端には、女の人に対しての愛情みたいなの、感じたことないし。
あ。それは、わたしに対してだけなのかな。
別にそれはそれでいーけど。
ず、っとお茶を啜ると、ガチャリとドアが開かれる。
――――げ。
カップを傾けた状態のまま、その扉を開け放つ主を見る。
そいつもわたしを一度見て目を合わせると、パタンと扉を閉めた。
「ちょうどよかった。オレにもお茶淹れて」
わたしの斜め前に腰をおろしながら、黒川はバサッとデスクに置いた見積書や資料などに視線を落とす。
当然のようにわたしに命令するそのことが、すごく腹立たしい。
別に、『お茶を淹れて』と頼まれることが嫌なわけじゃない。ただ、そういう、ものの言い方とか態度とか。総合して、“わたしのときだけ”、黒川は素に戻るのだ。
無言で席を立つと、ヤツのマイカップを戸棚から出して、背を向ける。
アイツに出すお茶だけど。でも、わたしはお茶を淹れることが好きだから、いつもと同じように丁寧に淹れる。
まずはポットからカップへとお湯を注ぎ、一度カップを温める。適温になったそのお湯を、茶葉の入った急須に入れ、約1分蒸らす。それから、茶漉しでカップへと注ぎ入れると、綺麗な緑色から爽やかな香りがして、『日本人でよかったなー』なんて一瞬思う。
お茶の用意が出来てくるりと体を回すと、伏し目がちに真剣な顔で仕事をしている黒川が目に入った。