イジワル上司に恋をして
「……『オトナだけど中身がコドモで、表現ベタなカレ』……?」
「!!」
「……随分と言ってくれるじゃねぇか」

ひ、ひぃ! ききき聞こえてらっしゃいましたかー!!

大きな動揺しつつ、でも弁解するような頭も働かなくて。
しかもこの責められ態勢に、一層わたしには逃げ場がないと思わされる。

「ああああれはっ……」
「あれは? なに?」

ああ! わたしの不器用! 機転がきかない子!!
うまく言い逃れできる理由、頭に降りて来ぉいーー!!

ぐるぐるとバカみたいなことを考えてると、次第に優哉の顔がわたしに近づいてくる。

ま、まさかここで?!
うそでしょ?! まだみんないるし、誰かココに入ってきたらどーすんのっ?!

バクバクと跳ね上がる心臓。熱くなった身体。
誰かが来るかも、ということが頭を掠めていながら、わたしはそれを拒めない。

――いや、本心では拒んでないんだ。

鼻先が触れる手前で、わたしは覚悟を決めたようにぎゅ、と目を瞑る。
すると、待てど暮らせど想像していた感触はなく……。
代わりに耳元で低音が囁かれる。

「あとで、ゆっくり聞いてやる」

蜜の含んだその声は、それだけでわたしを震わせて上気させる。
危うくヘンな声が漏れそうになるのを自分の両手で口を抑えることで阻止した。

ゆっくりと目だけを上に上げて目前の優哉と目を合わせると、ヤツがパッと離れて言った。

「と、いいたいとこなんだけど。今日残業になりそうだ。日付跨ぐかもしれない」
「えっ……?」

涼しい顔で言われたことに、わたしは拍子抜けして力が抜けた。
端正な横顔をぼーっと見ながら、ヤツの話を聞く。

「ブライダル(こっち)じゃない。レストラン(うえ)だ。体調不良で欠員が出て、急遽呼ばれた」
「え……あ……そう……なんだ」

レストランて……コイツはやっぱりなんでもこなせるんだ。
ああ、そういえば昔そういう部署にいたような話も聞いたような聞かなかったような……。
< 364 / 372 >

この作品をシェア

pagetop