イジワル上司に恋をして

……黙ってると、本当にかっこいい上司なんだけどな。

頬づえをついた手指や、見えない鎖骨に向かう首筋が、なんというか、フェロモン全開で。

それに、この間の雨の日の帰り。
あのとき、間近で見たから知ってるだけだけど……睫毛も長くて、肌も綺麗で。香水なのかおうちの香りなのかは知らないけど、ちょっといい匂いもした。

そこに混じって香る、微かな煙草の匂いが、またちょっと大人を感じさせて――。


無意識に、食い入るような視線を黒川に向けていたら、不意にヤツの顔が上がってびくっとした。


「……だから、人で勝手に妄想すんな、っつってんだろ」


真顔でバッサリと言われると、瞬時に返す言葉も浮かばない。その間にも、黒川という男は意地悪く淡々とわたしを冷罵(れいば)する。


「“なの花”って名前、“妄想家”に改名したら」


頭の回転が遅いわたしは、あとから沸々と怒りが湧いてくる。


なによ……なによ。別に迷惑掛けてないし! ていうか、このお茶あんたのために淹れたんですけど! その“妄想家”がねっ。


ドンッと乱暴にお茶を出して、「ふんっ」と漫画のように大げさに鼻息を荒くした。


「だったら、黒川さんは――――」


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