イジワル上司に恋をして

美優ちゃんは、「楽しくて仕方ない」と言っていただけあって、率先してブライダルのお客さんへとお茶を出してくれる。
その分、わたしはショップ(こっち)で店番してればいいだけだから、いいんだけど。

でもさ。わたし、結構その“お茶出し”好きなんだよね。

なーんて、わざわざ言えるわけもないし。
とりあえず、大人しく立ってるとしようかな。


休憩中に売れたであろう、タオルやスリッパをちゃちゃっと補充してしまうとまたわたしはマネキンのようになるだけ。


ブライダルは大忙しなんだろうけど、こうも一枚のガラスを隔てて違ってくると、申し訳なくなってくるなぁ。


ぼんやりと、ブライダルサロンを眺め、真剣に話を聞いてるカップルや、楽しそうに笑ってるカップルが目に入る。


あー。きっと、今が一番楽しいときなのかな?
それぞれ恋愛してきて、ひとつの区切りとして、結婚するんだよねぇ。

あのカップル、待ってる間はジュエリーショップの雑誌見てたみたいだけど、今日はこの後指輪でも見に行ったりするのかな。
指輪かぁ。今は婚約指輪はあまり贈らないって聞いた気がするけど、どうなのかな。


わたしなら……うーん。やっぱり、欲しいか欲しくないか、と聞かれたら、『欲しい』になっちゃうよね。

あれ。でも、そういうのって、一緒に買いに行くのかな。

デートの最中に、突然、パカッとあの四角い箱を開かれてプロポーズされるっていうのはしないのかな。
ああいうシチュエーションも、正直捨て難いんだよなぁ。

そりゃ、確かにさ。直接お店に行って、好きなデザインのものを選ぶのも悪くない。
けど、ジュエリーショップっていう、男の人には敷居高そうな、そんなお店に一人で行って。それで、一生懸命“好きそうだ”とか“似合いそう”とか考えながら選んでくれて。

サイズだって、きっとばれないようにどうにか探って準備してたということを想像したら、もう堪らなく――――。


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