イジワル上司に恋をして
「あの」
「?! は、はいっ。いらっしゃいま……」
ああ! またやっちゃってた! よそ見して、予定のない未来を想像してた!
目の前にいるお客さんに声を掛けられ、慌てて首をもとに戻して礼をする。
ぱっと顔を上げて、お客さんに用件を伺おうとした。
――――え。
「に、西嶋さっ……」
「あ。ははっ。やっぱり、鈴原さんだ」
ホテルのショップに来店されるお客さんは、大抵年齢層が上の人たちばかり。
なのに、声を掛けられたときから、若い感じがして違和感があった。でも、たまに観光の人とかが、道やお店を尋ねてきたりするから、と思ってたけど――……。
「ここで働いてるんだ」
白い歯を見せ、爽やかな笑顔でわたしを見つめるのは、ホンモノの……?
「にっにににに、西嶋さんっ……?! な、なんでっ……ていうか、わたしのこと……!」
「え? そりゃあ憶えてるよ。同じサークルだったし。ていうか、まだ最近のことじゃん? 忘れないよ」
ああ、変わらない、その笑顔。超、癒されます、西嶋さん!
少し犬にも似た、愛らしい瞳の西嶋光輝(にしじまこうき)さん。
大学のときのひとつ先輩で、なにを隠そう、わたしがもっぱら熱視線を送っていた人だ。
かっこいいんだけど、どこか可愛らしくも見える容姿に萌えてたわたしは、一目惚れのような形で同じサークルを選んだ。
もちろん、“好き”といえばそうだったんだけど、告白して付き合うとか、そういうのは全然想像できなくて。
で、結局、『たまに言葉を交わせたらラッキー』くらいの距離感で終わったんだよね。
連絡先だって、頭の中では何度も交換してたけど、現実には――……。