イジワル上司に恋をして

「あっ……そう、です……か。あはは。あ、今日は、どうしてこちらに? あ、もしかして……」


西嶋さんの後方に、店内を見てる女性がいることに気がついた。
その女の人にちらりと視線を向けて、そのあと隣のブライダルに目をやった。


「ああ。ここ、隣がブライダル関係の場所なんだね――――あ! 違うよ? おれはそういう予定ないない!」
「え? そうなんですか?」


でも……。そうじゃなくても、ランチデートとかなんだよね、きっと。
最近のホテルはランチも手頃な値段で来やすいし。

あの人、西嶋さんの彼女サンかな、やっぱり。
大学では見たことない気がする……けど、キャンパスも広くて人もたくさんだから、実は同じ大学だったのかも。


「あ、光輝。みんな来たみたい」
「え? ああ。あ、じゃあ、鈴原さん。またね」


ごく自然に「光輝」と呼び、わたしににこりと笑って、軽く会釈をすると、その女の人は先にショップを出て行ってしまった。
そのあとを追うように、西嶋さんも背を向け、閉まりかけたドアに手を添えた。

ぽかん、と西嶋さんを見てると、くるりと顔をこっちに向けて、あの爽やかな笑顔で言った。


「仕事、頑張って」


チリンチリン、と、ドアチャイムの高い音がおさまっても、わたしはしばらくそこから視線を動かさずにいた。


『頑張って』。


その西嶋さんの声と、笑った顔がまだ頭の中で再生され続けてる。


……うわ……。うわ、うわー。すごい出来事じゃない?! 今の!

大学のときの憧れの先輩に再会して、しかもわたしを憶えてくれてて! わたしだけに笑顔を向けてくれて、あんなこと言われたら……。
しかも、「またね」って言ってたよね? もしかしたら、本当に“また”があるかもしれないってことだよね? 向こうはここにわたしがいるってことを知ったんだもん。

なんか、『これから恋、始まります!』みたいじゃん!


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