イジワル上司に恋をして

西嶋さんと一緒にいた女の人の存在を忘れてるわけじゃないけど、わたしは単純に少し前の出来事を喜んで、ニヤついていた。


「気持ちワル……」
「!??」


背後に全く気配を感じていなかったわたしは、その声に心底驚いて、ビクリと全身を震わせた。

ゆっくりと首を回すと、当然そこには……。


「く……ろ、かわ……さん」


なに、なんで。忙しいだろうサロンを抜けて、なぜそこにいるんだろう。
ていうか、いつからそこにいて、どこから見ていたの?


動揺した心を隠そうと、呼吸を整えながら、黒川の出方を待つ。
黒川の顔を見てみるけど、眉ひとつ動かさずに、ただわたしを見下ろしてるだけ。


……全っ然、表情から心を読み取ることが出来ない。
そして、その、じっと見つめられる目が怖いんですけど……。


気持ちで完全に負けてたわたしは、じりじりと後ずさる。レジカウンターに手をつき、それ以上逃げられない、と悟ったのと同時にヤツが口を開いた。


「どれだけ都合いいの? ココ」


トン、と額のあたりを人差し指で突かれると、一瞬、思考が止まった。
再び頭が動き出したときに、黒川の手越しに見えたコイツの顔が……すごい意地悪な笑み。


「そっ……の、顔! みんなに見られますよ!」
「今、手が空いてるの、オレだけだし。そこまで抜けてねーし。オマエみたいに」
「わ、わたしだって……!」
「え? なに? つい今さっき、思いっきりアホな顔して、入口見て突っ立ってたけど?」


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