イジワル上司に恋をして
ドキンドキンと騒がしい心音は、ここ最近なかった感覚で。
だから余計、どうやって収まらせるのかわかんなくて、ダンボールを落とさないように立ってるのがやっと。
「これ、結構重いんじゃない? オレ持つから」
そうして、“普段みんなが見ている黒川部長”が、ひょいっとわたしの手からダンボールをさらって行く。
身軽になった自分の手を数秒みつめ、ハッとして、黒川の背中を追う。
「あっ……あの!」
「なに? ああ。これ、決まった場所あるの?」
「え? えーと……」
――調子狂う。
口を開けば、嫌味とか皮肉とかしか言わないコイツが。
わたしを女性扱いして、なお、穏やかな空気を漂わせて接してくるなんて。
「あ……ありがとう、ございま――イタッ」
レジの奥へとダンボールを運んでくれた黒川に、一応お礼くらい言わなければならないか、と前傾姿勢になったときだ。
くるぶしに不意の痛みを感じて、思わず声を上げてしまう。
「……どこ?」
「え! いや、なんでもないですから」
「ああ、そこか」
今は優しい方の黒川が目に映ってるけど、コイツは本当はヒドイ奴。
騙されないぞ、と自分を戒めて、いつしか近かった距離を少し開けるように一歩退いた。
だけど、簡単にわたしの足のケガを見つけた黒川が、心配そうな顔を見せながら言う。