イジワル上司に恋をして
わたしと由美はメニューに視線を落としながら会話を続ける。
「幸せ、い~っぱいのカップルを何人も見てるんでしょ? ないの?」
「は? なにが?」
突然の質問に、お刺身のページでなにを頼むか考えていたのが飛んでしまった。
顔を上げて向かいの由美を見る。でも、由美はそのまま下を向いたままで、そのお刺身のページを捲ってしまう。
――ああ! わたしの刺し盛りが!
そんな心の叫びに気付くはずもない由美は、一品料理のページで手を止めた。
「好きな人とかさ。気になる人。いないの?」
由美には頻繁には会ってるけど、ほとんどそういう話を聞いてこない。
いい年頃の女子二人が集まって、話すことって言ったら、仕事の話か昔の話。
それと、たまーに由美が話す、好きな人の話。
だから、ちょっとびっくりして目を丸くしたあと、「ふはっ」と笑って軽く否定する。
「ないよ、ないない」
「えーなんで? 感化されない? 『いいなぁ』とかさ。なんかそういうアンテナ、ピン! ってなりそうじゃん」
「そりゃあ、まぁ……」
微笑ましかったり、多少羨ましかったりはするけどさ。
でも、いいんだわたしは。
そういうカップルをみたりしては、脳内で幸せになってる“つもり”だから。
それは負け惜しみでもなんでもなくて、本当ただ純粋に。
『あー。あそこに座ってるのがわたしで、隣の彼が結婚相手だったら……』
なんて、暇な時間に空想するのが大好物っていう。