イジワル上司に恋をして

「なんでもない! さー、続き続き!」


美優ちゃんの後ろを通り、やりかけだったダンボールに手を伸ばしたときだった。

チリンチリン、と、来客を知らせるいつもの音が店内に響いた。


「いらっしゃいませ」


正面を向いていた美優ちゃんが先に声を掛ける。それに続いてわたしも――と思い、屈め掛けていた体を起こした。


「あ、いた。よかった!」
「にっ……西嶋さん!」


一直線にレジまで歩いてきた人は、想像でも幻影でもなく、リアル西嶋さんだ。

そ、そうだよね? だって、幻なら、美優ちゃんにも見えるはずないし……。え? 本物の西嶋さんが、なぜ、ここに?


黒川の動悸がようやく収まろうとしていたときに、突然の来訪者。その相手が、さっきまで思い出していた西嶋さんで、わたしの心臓は再び激しく暴れ出す。

びっくりしすぎてなにも発せないわたしに、西嶋さんはニコッと笑った。


「外回りで近くを通りかかって。時間もあったから。それに、この間は突然だったし、ゆっくり話せなかったし」


ひ、ひぃーー!! ま、マジで?! そんな、想像通りのことって起きるの?! 神様! どんなサプライズですかっ。しかもスーツ姿だなんて、ドキドキ3割増しですけど!


明らかに動揺を隠せないわたしを見て、西嶋さんは口元を手の甲で押さえながら笑いを押し殺していた。
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